3分で読めるNYタイムズ記事まとめ

俺的アンテナに引っかかったニューヨークタイムズの面白記事を、個人的な感想と共に日本語で紹介しています。記事翻訳ではありません!


反ワクチン集会の現場から見えた医療の危機

今日のピックアップNYT記事:I Went to an Anti-Vaccine Conference. Medicine Is in Trouble.

テキサス南部で麻疹が流行し、ワクチン未接種だった8歳の女児が死亡した。女児の父は反ワクチングループ「Children’s Health Defense(CHD)」の年次大会に参加し、「麻疹をめぐるメディア報道の嘘を暴く」というパネルディスカッションで、娘を失った体験を語った。

父親は娘の医療記録をCHDに提供し、同じパネルに参加した医師は、死因は麻疹ではなく「病院での誤った治療による肺炎」だと主張した。父親は「二度と子どもを病院に連れていかない」と語った。

キリスト教に「テスティモニー」という行為がある。個人的な苦しみを語り、それに意味を見出し、共同体と結びつく行為を指すが、娘を失った父親の証言は、この宗教的行為に酷似している。つまり、ワクチン反対グループが個人の苦悩に文脈を与え、精神的な支えを提供しているのだ。

CHDは、ワクチンや農薬、5G電波など「有害な毒性」を排除することを使命に掲げている。大会では、医療界や公衆衛生への強い批判が繰り返され、ワクチンの危険性を強調する主張が多数語られた。

参加者の中には、玉ねぎでアレルギーを治したと語る者や、コロナワクチン接種者の遺体から得たと主張する組織片を見せる者もいた。ワクチンのせいで被害を被ったと主張する参加者の多くは、予防接種が自閉症などの神経発達障害を引き起こしたと信じている。会場に質疑応答はなく、参加者の主張を肯定し合う一方通行の場となっていた。

女児の死は、地元コミュニティの悲劇であると同時に、全国的なワクチン論争の象徴となった。西テキサスの保健当局は、ワクチン拒否派の事情を理解しつつ感染防止に努めていたが、全国報道では「ワクチン未接種ゆえの死」という単純な枠で語られた。

反ワクチン派を単に「誤情報を信じた被害者」とみなすのでは、人々の主体性を過小評価することになってしまう。彼らは自らの選択としてCHDの世界観を受け入れている。そこには「あなたは臆病なのではない、勇気があるのだ」と、自分を信じてくれる共同体がある。

公衆衛生と医療文化は、「避けられた悲劇」を教訓として扱いたがるが、これは間違っている。危機的な状況は「医療は何ができるか」を示す機会であり、個人の考えを変えさせる機会ではない。医者が説く「最善の道」を患者が拒否するとき、ケアとオプションを提供するのも、医療の仕事であるべき。

CHDのような団体は、人々が自分の体験を語り、そこから目的意識を見出す場を与えてくれる。その一方で、従来的な医療は、助けられるはずの人々を失う一方となっている。科学的に誤っている主張を肯定はできないし、「精神的な支え」は公衆衛生や医師の管轄ではないかもしれない。しかし、個人の信念や選択に関わらず、医療は人々に寄り添う努力が必要ではないだろうか。

俺的コメント

あるドクターによる反ワク団体イベントの潜入レポ(?)です。トンデモ科学を信じている人々をカルト集団だと断じるのは簡単ですが、このドクターはそうではありません。ワクチンに対する認識の誤りを指摘する前に、苦しんでいる人に寄り添う気持ちがなければ、医療はますます人心を失うと警告しています。

コメント欄のトップにある主張を読むと、ワクチン推進派・公衆衛生側の問題がよくわかります。「普通子供を病気でなくしたら、同じ病気で他の子供がなくなることのないよう、研究に寄付したりするのが『悲しみを目的意識に変える』ということではないのか?この父親は、子供にワクチンを打たなかったという過ちを認めたくないだけ。」

これは、「ワクチンを打たない=間違っている」という枠組みからどうしても抜け出せない人の主張です。父親としては、「娘を死なせたのはお前だ」としか聞こえず、そこからは何の対話も生まれません。対話がなければワクチン合理(推奨)に戻る道は完全に閉ざされ、CHDのような組織は、道を閉ざされた人を拾うのが実に上手いのです。

著者の肩書きをみると、高齢者医療と緩和ケアが専門のようです。つまり、死にゆく人間の苦しみを減らすのが仕事。科学的な正しさよりも、人間が抱える不安や悲しみを見つめる医師らしい、エンパシーのある視点です。

科学を信仰するかカルトを信仰するか、二択でなければならない理由はないですよね?「どっちの気持ちもわかるお医者さん」の意見が、多くの人に届くことを願います。



About Me

新潟出身、カナダ在住。英語 -> 日本語 クリエイティブコンテンツ周辺のお仕事を請け負っています。

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