3分で読めるNYタイムズ記事まとめ

俺的アンテナに引っかかったニューヨークタイムズの面白記事を、個人的な感想と共に日本語で紹介しています。記事翻訳ではありません!


「トランプ・ハイウェイ」地元民の政治観

今日のピックアップNYT記事:Where There’s a Trump Highway but Not Many Trump Flags

アメリカの真ん中に、「ドナルド・J・トランプ大統領」の名を冠せたハイウェイがある。オクラホマ州の西端に位置するシマロン郡。真っ青な空のもとに麦畑が広がり、常に陽が照り風が吹いている鄙びた場所だ。人々は信心深く、郡役所がある人口1,166人のボイシーシティには、9つの教会とバーが一軒。高校の廊下には「神はみしるしを与えらた」と書かれたポスターが貼られている。しかし、けして1950年代から時間が止まっているわけではない。食料品店にはタイ料理のスパイスがあり、地元ニュースのフェイスブックページがあり、フェンタニル(麻薬)問題とも無縁ではない。

保安官に立候補しているクリント・トワンブリ氏に話を聞いてみた。気候変動をどう思うか尋ねると、温暖化は、本を売って金儲けをしたい人たちが騒いでいるだけで、科学的根拠に欠けると思う、とのこと。前回の大統領選の後の議事堂襲撃については、特に害のない事件だったと認識しているようだ。

シマロンは不思議な場所だ。オクラホマといえば保守中の保守、バラク・オバマが唯一ひとつの郡でも勝てなかった州だ。2020年の選挙では、トランプは33ポイントという大差でオクラホマを勝ち取ったが、シマロン郡での勝利はさらに凄く、92%がトランプに投票した。トランプにちなんだハイウェイもあるし、さぞトランプ贔屓なのかと思いきや、トランプ支持の旗はどこにも見当たらず、郡の職員は「ほかに(トランプ・ハイウェイの)引き取り手がなかったんですよ」と明かす。最近の有罪評決が出る前からトランプの性格には疑問を抱いており、「トランプは善人ではない。一緒に夕飯を食べたいような人じゃないね」と言う。

では民主党に投票するかといえば、それはあり得ない。カナダ国境からメキシコ国境まで、アメリカを縦断する帯状の保守地盤においては、共和党への投票は土着文化のようなもの。民主党がどうすれば投票する気になる?と聞いても、法律を作り過ぎ、現行法をちゃんと施行しない等々、定型句が返ってくるだけだ。

シマロンを一言で表すと?という質問に、多くの地元民は「独立性」と答える。自主独立を誇りにしているのには、理由がある。ここの住民は、1930年代のダストボウル生き残りの子孫だ。逆境を自力で乗り越えた精神が今でも生き続けている。けして自己中心ということではなく、助け合い精神に溢れている。隣接するニューメキシコ州の大火の際には、ただちに支援物資を届けたのもシマロン郡の人々だ。

実際には、シマロン郡は住民が思うほど「独立」してはいない。連邦政府の援助(つまり全国民の税金)と、枯渇が懸念されているオガララ滞水層がなければ、シマロン経済の要である農業は干上がってしまう。

ここ最近、過激派の事件が話題になっている。カンザス州在住の女性2人が、親権争いを発端に4人のシマロン住民に殺害された。犯人たちは、全員が反政府的な思想を持ち、首謀者は昨年シマロン郡の共和党議長に選ばれた人物だった。

シマロン在住の元判事によると、「彼らは互いに過激な思想を吹き込みあっていて、自分たちは政府による抑圧の犠牲者だと思っている。そういう考え方はかなり昔からあった。教会でも政治的にも異端な人たちだったが、他の住民とものすごく違うわけでもない。」

殺人犯と過激派右翼と共和党のつながりに、住民が居心地の悪さを禁じ得ないとしても、それが選挙に反映されることはない。シマロンには今日も風が吹き、麦は実り、11月にバイデンが勝利することは決してない。

俺的コメント

トランプを良く思っていないけど、共和党に投票するのは伝統だから変えようがない。国の援助がなければ成り立たない農業を生業としているのに、自分たちはお上の世話にはならない自助独立の民だと思っている。農業の生命線である水源が危機に瀕していても、温暖化なんか嘘だと思っている。嗚呼アメリカの田舎よ!

「ダストボウルを生き残った人々の子孫」とありますが、ダストボウル(砂嵐)は1930年代にあった人為的環境危機のことで、スタインベック「怒りの葡萄」の背景になった現象です。エコロジーを無視した耕作で自然のしっぺ返しを食らったオクラホマの農民が、離農を余儀なくされ仕事を求めてカリフォルニアに流れつき、そこで大資本の農家に奴隷のようにこき使われるのです。最近の小説だと、The Four Winds がダストボウルの時代を描いています。作者は、女性が辛酸を舐めまくる大河ドラマを書かせたら右に出る者がいないクリスティン・ハナ。帝政ロシアの農奴もびっくりの扱いを受けても、労働組合だなんて、そんな共産主義者みたいなことできない!と搾取と差別に耐える環境難民たち。

ダストボウルを引き起こす間違った土地の使い方を国が改革しようとすると、農民が抵抗する様子が小説に描かれていました。今時の環境政策否定派に通じるものがあります。あの時代を生き残った誇り、ってなんなんだろう。「科学的な根拠」を元に、環境破壊を防ぐ農業を指導した政府と共に苦境を乗り越えた誇りではないのでしょうか。



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新潟出身、カナダ在住。英語 -> 日本語 クリエイティブコンテンツ周辺のお仕事を請け負っています。

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