今日のピックアップNYT記事:For Female Climbers, Dangers Go Beyond Avalanches and Storms
俺的記事まとめ
元ミス・フィンランドの登山家、ロッタ・ヒンツァは、昨年出版された自伝の中で、「ある超大物クライマー」にセクハラを受けたと告白した。同氏はNYTとのインタビューで、そのセクハラ加害者が、ネパール人登山家のニルマル(ニムス)・プルジャであることを明らかにした。プルジャは、世界の8000m峰14座を最短時間で制覇したクライマーとして知られ、ネットフリックスのドキュメンタリー番組にも取り上げられている。
プルジャは自身の山岳ガイド会社、Elite Expedを通じて商業登山の新時代を牽引、ソーシャルメディアで女性の登山も奨励している。カタールの王族やロシアのモデルなど、有名人クライアントを登頂成功に導き、Red Bull やNikeなどのブランドとも提携している。インスタグラムには200万人のフォロワーを有し、母国ネパールでは、エドモンド・ヒラリーと共にエベレスト初登頂を遂げたテンジン・ノルゲイに次ぐ英雄と見なされている。
2023年、ヒンツァは自身が企画する登山で、プルジャとの提携を考えていた。カトマンズのホテルで打ち合わせをすることになり、プルジャは、ロビーでは目立つので自分のスイートルームでコーヒーを飲みながら相談しようと提案。以前にプルジャから気のあるそぶりのメッセージを受け取っていたヒンツァは、「性的な誘いは無しで」と合意した上で、密室での打ち合わせに臨んだが、プルジャは彼女を寝室に連れて行き、服を脱がせ、ブラを取ろうとした。Noという言葉を繰り返し、生理中だと言い訳をしたり、軍隊経験もある屈強な相手を怒らせずに行為を止めさせようと試みた結果、プルジャが自慰行為をしてその場は収まったという。「なんとかあの状況から抜け出し、何事もなかったように振る舞うしかなかった」とヒンツァは述べている。
カリフォルニア在住の医師でエベレスト登頂経験があるエイプリル・レオナルドも、プルジャのセクハラ被害に遭っている。2022年、彼女は2ヶ月の遠征ガイド料としてプルジャに5万5千ドルを支払い、世界第2の高峰K2登山に挑戦した。標高5000mのK2ベースキャンプで、プルジャは人気のない倉庫テントでレオナルドの腕を掴み、無理やりキスして「あなたをいただく」と発言。別の折、レオナルドが膝を痛めてテントで寝ていると、プルジャが現れ、膝を見てやろう、と寝袋に手を入れてきた。寝袋の中で身動きが取れずにいると、腕をつかまれプルジャの股間を触らされた。プルジャは、セックスしたいけど、周りに人がいなくなるまで待とう、と言って去ったという。
ヒマラヤ登山において、8000m以上の場所は「デスゾーン」と呼ばれ、空気が薄く人間はそこにいるだけで命の危険に晒される。昨シーズンは18名のクライマーが死亡し、今年だけでも5名が死亡、3名が行方不明になっている。商業登山のクライアントは、何万ドルという料金をガイドに支払って登頂を目指す。K2への挑戦自体が狂気の沙汰にも等しいのに、命を預けるガイドが性的関係を迫ってくる。レオナルドは途方に暮れ、プルジャと二人きりにならないように立ち回ったという。
プルジャはNYTの取材申し込みを拒否し、弁護士を通じて二人の女性の主張は全くの虚偽であると言明している。
アウトドアスポーツにおけるセクハラは、遅まきながら近年注目を集めている。アメリカの登山コミュニティは、#MeToo運動に呼応して2018年に#SafeOutside イニシアチブを発動、セクハラ問題の調査を始めた。60ヵ国、5000人のクライマーを対象にした調査では、女性の47パーセントと男性の16パーセントが、登山中に望まない性的行為を迫られた経験があると回答した。
長期に渡り僻地の狭い場所でチームが寝食をともにする登山には、固有のセクハラリスクがある。OB会的な文化が支配する山岳界では、偉業を達成した者が称賛され、英雄に逆らう者は排除される傾向にあるため、不適切な行為を黙認する素地がある。
アメリカでは今年、有名クライマーのチャールズ・バレットが、ヨセミテ国立公園にハイキングに来ていた女性への性犯罪で有罪になった。難ルートの攻略者として知られ、ガイドブックの著者でもあるバレットは、クライミング雑誌で「カリフォルニアのクライミングマスター」と称賛されていた。Safe Outsideのセクハラ調査では複数の女性がバレットに性暴力を受けたと明かし、2020年にヨセミテの被害者がバレットを告発した。
NYTの取材に応じた二人の女性登山家は、外国で起こった性犯罪の扱いがわからず、警察への通報はしていない。ヒンツァは、登山という男性中心の世界が、女性にとってより安全な場になることを願い、自らの体験を語ることにしたという。「女性には雪崩や落石以外にも心配しなければならない危険がある」。レオナルドは、K2登頂という記念すべき体験が、セクハラで汚されてしまった、他の女性に自分と同じ思いをしてほしくない、と述べている。
俺的コメント
超有名登山家の高所セクハラがNYTに斬られた件。公の場で有名人を告発するのは、勇気がいったことでしょう。伊藤詩織さんの例に見るまでもなく、女性側が中傷されるのは必至だし、特に元モデル登山家さんのほうは、痛恨のミスを犯しています。雑誌に掲載された自分の水着姿の写真をプルジャに送ったことがあって、「性的な誘いは無しで」と合意したというメッセージも、アプリの設定のせいで証拠が残っていないそうです。
ヒマラヤのシェルパは、ベースキャンプのテントで性行為に及ぶ外国人がいると、山の神様の怒りを招くと信じている、と90年代の山岳ノンフィクションで読んだ覚えがあります。世界に名を馳せたネパール人クライマーが、下半身がらみの不祥事を起こすとは、山の神様もさぞお怒りになったことでしょう。商業登山隊が打ち捨てていくゴミの山と同様、ヒマラヤ登山の頽廃ぶりにガッカリする出来事です。
大学生のころ山小屋でバイトしたことがありますが、そこで出会った山男たちは素朴で純情で捕食動物的なところはまったくなかった。ウケ狙いなのか真面目なのか、山男風の口説き文句を考えては「君は黒部の源流よりも清らかだ」などとバイト女子たちに披露して爆笑されていたものです。今思うと、黒部の源流より清らかだったのは、あの山男たちだったよ…。
プルジャさんもねえ、股間を掴ませるとか無理チューとかの愚行に及ばずにだな、エベレストでシェイクスピアを読んでいた1920年代のイギリス遠征隊のごとく、ガイド商売を売り込みたい相手に詩のひとつも詠んでやればよかったのに。弁護士を通してセクハラ全否定とは、ミソジニストの教科書通りだな。きっちりキャンセルされてくるがよい。ちなみに、ヨセミテの強姦魔クライマーには、めでたく終身刑が言い渡されたようです。山を愛するものとして、高所セクハラの撲滅を切に願います。
