3分で読めるNYタイムズ記事まとめ

俺的アンテナに引っかかったニューヨークタイムズの面白記事を、個人的な感想と共に日本語で紹介しています。記事翻訳ではありません!


人生を変える朝ごはん

今日のピックアップNYT記事:Let This Breakfast Change Your Life

料理人の中嶋翔太さんは、早寝早起きだ。犬の散歩に毎日1時間半をかける。お酒はやめたそうだ。活力のもとになる食事は「ご飯と焼き魚と漬物」、特に朝食はこの組み合わせが定番。20代から30代にかけての激動の時代を過ぎ、平和な日々に落ち着いた今が一番幸せ、と中嶋さんは言う。「ぼちぼち頑張ってる、って感じかな」

中嶋さんと話していると、そう遠くない未来の、今より幸せな自分を見ている気分になる。騒がしく長いトンネルの先に、光が見えてきた実感。年齢と経験を重ね、今の境地に達した中嶋さんは、「土星回帰の時代」を終えたのだ。

NASAによると、土星が太陽を一周するのに29.4年かかるそうだ。生まれたときの土星の位置が、軌道を一周して元の位置に戻るとき、人間はひとつの時代を終えるという。占星術では、土星回帰の時期には大きな転機や変化が訪れる、とされている。自分も20代後半から30代前半にかけては、かつてない大きな変化を経験した。新しい仕事、引っ越し、新しい恋人、新しい生活。次の土星周期に落ち着くにあたり、はじめたことがある。それは、「日本風の朝ごはん」を食べることだ。

一杯のスープと三種の料理(イチジュウサンサイ)から成る日本の朝食は、単に朝一番の胃袋と心に優しい、というだけではない。ボウルに一杯のライスを中心に、バランスよく炭水化物とたんぱく質と野菜を配した食事には、心身を回復させる力がある。たとえば、ふっくらと炊き上げた中粒米、味噌味のとろけるような魚を一切れ、拳ひとつ分のほうれん草に胡麻をかけたもの、とろとろの温泉卵。準備する余裕があった日は、手作りの味噌汁をティーカップに一杯。きゅうりやかぶ、キムチなど、そのとき冷蔵庫にある漬物の取り合わせを加えて、完成。

5歳のとき、家族に連れられて初めてソウルに旅行した。時差ぼけ状態で真夜中におばのアパートに到着し、翌朝目が覚めると、おばは実に豪勢な朝食を用意してくれていた。柔らかくつやつやに炊き上げたパプ(韓国語で「ごはん」)を、今でも鮮明に覚えている。年に1回か2回、特別な日にしか作らないはずのカルビチムもあった。5歳の私は、カルビチムの汁をごはんにかけていい?と尋ねた。「もちろんだよ。脂はすくい取ってあげたからね」とおばは言った。

手のかかる朝食を、大切な誰かのために作ること。それは、ただの奉仕行為ではない。私は最近、自分自身のために、あるいは、自分とパートナーのために食事を作ることこそ、真の幸せなのだと気付いた。それは、一緒に過ごす時間を大切にすること、日々を慈しみながら生きることにつながる。

ジャパニーズブレックファストは、けして向上心を持って作るようなものではない。日常生活の現在地、今この瞬間の冷蔵庫の中身と台所習慣を反映するものだ。私は毎朝、魚の切り身を焼いたり、スープを作ったりするわけではない。前の晩の残り物だって、立派なジャパニーズブレックファストになる。日本人が子供に持たせる「弁当」には、昨夜のおかずが登場すると、ブルックリンで和朝食レストランを営む原口雄次二さんも言っている。

日本人は、フランス人がパンを「フランスパン」と呼ばないのと同様、朝食を「ジャパニーズブレックファスト」とは呼ばない。朝食は朝食だ。日本式の朝食とは、従うべきレシピというより、生活態度でありマインドフルな料理というアプローチなのだ。ジャパニーズブレックファストを実践するにあたり、何から初めてよいか迷ったら、まずはサーモンの味噌焼きをおすすめする。すりおろしたレモンの皮を入れた味噌でサーモンをマリネして、白米と味噌汁を合わせ、食後には、ほうじ茶をお気に入りのコーヒーマグで楽しむべし。

朝からそんなに頑張れないと思うだろうか。ジャパニーズブレックファストは、今の自分ではなく、将来の自分のための料理であることを忘れないで欲しい。種を蒔いて、水をやって、日々を生きていこう。

俺的コメント

NYT Cookingでレシピを書いているエリック・キムさんのエッセイです。記事に添えられた「ジャパニーズブレックファスト」の写真は、日本人が思い浮かべる和食とはちょっとズレてて面白い。「ライスを中心に~」という本文に忠実に、ごはんが中心線上にあって、飯碗の場所は必ず左下の日本人にとってはナンチャッテ斬新な構図です。温泉卵にかかってるのは、七味じゃなくてパプリカパウダーかな。アメリカ人のごはんといえばワンプレートですが、ジャパニーズブレックファストが「spread 」つまり「(皿小鉢を)広げたもの」と表現されていて面白いです。(「膳」はspreadと訳せばいいのだな、メモメモ)

コメント欄を見ますと、なんて美しいエッセイでしょうと褒めてる人もいれば、「朝から魚?絶対ムリ」という人もいらっしゃいます。魚を食べるという行為がいかに環境に悪いかというNYTらしい議論も展開されているし。

中にはイラっと来た人もいるようで、「朝食は牛乳ぶっかけシリアルでも愛があればいいの!」というコメントも。俺も「丁寧な暮らし系」の人が苦手だったりするので、なんかわかる(笑)。「人生を変える」とか「マインドフル」とか、意識高い系の説教だと勘違いされたのかも。実は「そんなに頑張らなくても良い」という話なんだけど。だってエリックさんの NYT Cookingレシピ、「ツナマヨライス」とかですよ?ごはんにツナマヨをかけただけの。それってレシピなの!?あ、レシピじゃないのか、「マインドフルなアプローチ」だったな!

あと数年で2回目の土星回帰を迎える身としては、青二才が落ち着きぶりっこしてんじゃねーよ、とも思ったりしますが、30代前半って、なんかちょっと悟ったような気分になるお年頃なのかもしれませんねえ。そのマインドフルな美しい朝ごはんを土星周期2回半以上も作ってきた新潟の母は、ご飯作りの呪いからもう解放されたいと言っています。



About Me

新潟出身、カナダ在住。英語 -> 日本語 クリエイティブコンテンツ周辺のお仕事を請け負っています。

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