今日のピックアップNYT記事:Inside Aleksei Navalny’s Final Months, in His Own Words
俺的記事まとめ
ウラジーミル・プーチンへの抵抗を叫び続けた反体制派リーダー、アレクセイ・ナワリヌイ氏の獄死が報じられた。死に至るまでの一ヶ月に、何があったのか、詳しいことはわかっていない。遺体がどこにあるのすらも不明だ。
ナワリヌイ氏が友人らに送った手紙から、獄中の様子を垣間見ることができる。
「ロシアの牢獄での生活がどんなものか、ここに来た人にしかわからない」「ただし、誰もここにくる必要はないのだ。」
「明日この囚人にキャビアを与えろ」という命令があれば、その通りなる。
「明日この囚人を房内で締め殺せ」という命令があれば、その通りになる。
残された手紙から、ナワリヌイ氏が獄中にあっても希望を失わず、知的好奇心を持ち続けていたことがわかる。しかし、強靭な精神力と揺るぎない信念を持ちながらも、宇宙旅行さながらに隔離された場所では、世界とのつながりを保つ戦いは厳しかった。
ナワリヌイ氏には、3人の弁護士がいた。文書の授受が禁止されたので、弁護士たちは、独房の窓に向かって文書をかざして見せたという。2022年になると、窓はアルミホイルで覆われた。昨年の秋、弁護士たちは「過激派グループに参加した」疑いで逮捕され、ナワリヌイ氏はさらに孤独な生活を強いられるようになった。
法廷での審議がある際には、独房を出ることができた。国側は、ナワリヌイ氏の刑期を延長しようと刑事告発を続け、ナワリヌイ氏もまた、獄中での不当な扱いに対して訴えを起こしていた。典型的なロシア的「判で押したような」審議ではあったが、「法廷にいるときは時間が早く過ぎるし、戦っているという実感を得られる」と、友人への手紙に綴っている。
法廷では、体制側に思いの丈をぶつけることもできた。昨年7月、さらに19年の刑期が追加された際、ナワリヌイ氏は法廷でこう発言した。「流れに逆らって泳ぐ自分を、狂っていると思うかもしれない。たった一度の人生を、独裁者のために茶番を演じて過ごすほうが狂っている。」
ナワリヌイ氏は、読書に慰めを得ていた。10冊を同時進行で読み、最近は政治家の自伝がお気に入りだった。「以前は自伝が大嫌いだったのに、読んでみると本当に面白い。」友人のおすすめ本を知りたがり、自分が読んだ本の感想も共有していた。ある手紙には、ソルジェニーツィンの「イワン・デニーソビッチの一日」を再読し、ソビエト時代の強制収容所の悲惨さが、やっと少しわかりかけた、と書いている。
アムステルダム在住のジャーナリストとは、ロシアの政治について議論した。ネモツォフ暗殺を扱ったジャーナリスト氏の著作を「ボリス・エリツィンに好意的すぎ」と批判しながらも、アムステルダムの生活について綴った手紙に感謝の意を述べている。「みんな私が同情や心痛の言葉を求めていると思っているようだが、私が聞きたいのは、ごく普通の日常の話だ。日々のニュースや食べ物の話、噂話も。」
ロバート・F・ケネディの娘であり、人権活動家でもあるケリー・ケネディ氏は、父の著作にナワリヌイ氏が感銘を受けたという話を聞き、「小さな希望のさざなみが、何百万と集まり激流となり、抑圧者を押し流す」というケネディのスピーチ引用を入れたポスターを寄贈した。ナワリヌイ氏は「いつか自分のオフィスにこのポスターを飾りたい」と返信している。
ケネディ氏の本をナワリヌイ氏に勧めたのは、ラトビアに住む写真家の友人だ。12月3日に受け取ったメッセージには、「君の手紙には、私の好きな話題が全部入っている。食べ物、政治、選挙、スキャンダル、民族問題」とあった。ガザ情勢、芸能人の訃報、トランプ再選の懸念についても触れ、「君が尊敬する政治家を一人、挙げてほしい」で手紙は終わっていた。その3日後、ナワリヌイ氏は消息を絶った。
12月25日、ナワリヌイ氏は北極圏の刑務所にいることがわかった。弁護士との接見のあと、「私が新しいサンタクロースです」とSNSに投稿。「窓の外は夜。その後夕方がきて、また夜が来る」と現地の様子を描いている。
ウラル山脈を超えて極地の施設へ向かう間も、ナワリヌイ氏は本を読んでいた。手持ちの本はすべて読んでしまい、移送先では、トルストイ、ドストエフスキー、チェーホフなどの古典しか読むことを許されなかった。「最も気の滅入るロシア人作家がチェーホフだとは知らなかった」と記された手紙を知人が受け取ったのは、2月13日。
2月17日、ナワリヌイ氏の母親は、息子が亡くなったことを知らされた。
ある友人は、ナワリヌイ氏から9月に受け取った手紙を反芻している。「韓国や台湾が、独裁政治から民主主義へと変わることができたのなら、ロシアにもできるだろう。希望を持とう。私は希望に何の疑いも持っていない。」
メディア起業家である友人に、彼はこう締めくくっている。「書き続けたまえ!A(アレクセイ)より。」
俺的コメント
絶望的な独房にいながら、本を読み続け、食べ物談義をし、政治や時事問題はもちろん芸能ネタにも興味を失わなかった人間ナワリヌイ。ロシアは、なんという類稀な人物を失ったのでしょう。
ナワリヌイの死を知った時、中野京子さんの「災厄の絵画史」を読んでいました。ロシアの画家、ヴェレシチャーギンによる反戦絵画「戦争礼賛」が紹介されています。「過去、現在、未来のすべての征服者に捧げる」この作品はつまり、ナワリヌイを殺したあの征服者にも、すでに150年前に捧げられているのです。ヴェレシチャーギンは戦争への怒りにかられ、従軍画家として「全身全霊で戦争を非難する」と語ったそうです。全人類への遺産を残すロシア人は、ヴェレシチャーギンでありナワリヌイであり、自分はどう歴史に記録されるのか、あの気の触れた征服者は理解する知性を持たないのでしょう。
ケネディの言葉「希望のさざなみ」のポスターをオフィスに飾りたいと言っていたナワリヌイ。いつか解放され、オフィスに戻る希望を捨てなかった彼に心からの敬意をこめて、このポスターを自作し、仕事場に飾ろうと思います。
自由のために、世界の平和のために、読み続けること、書き続けること、知的好奇心と希望を持ち続けること、全身全霊で戦争に反対すること。人生後半、悔いのないように、できることを続けていくと、ナワリヌイに約束します。
