3分で読めるNYタイムズ記事まとめ

俺的アンテナに引っかかったニューヨークタイムズの面白記事を、個人的な感想と共に日本語で紹介しています。記事翻訳ではありません!


フロリダ州ハリケーン災害復興の現状「財力のない者は海辺を去るべし」

今日のピックアップNYT記事:If Hurricane Rebuilding Is Only Affordable for the Wealthy, This Is the Florida You Get

一年前、フロリダ州に上陸したハリケーン「イアン」は、海沿いの街フォートマイヤーズを数時間に渡りほぼ水没状態にした。被害総額は史上最悪となり、現地では今、やっと瓦礫を片付けたばかりの家が、数百万から数千万ドルの価格で大量に売りに出ている。

気候変動による水位の上昇や自然災害の激化が進む中、フォートマイヤーズのような海岸沿いの街では、昔ながらの簡素な家屋、集合住宅、ホテルなどを、より厳しい建築規定に合わせて建て変える再開発が急速に進んでいる。災害耐性を考慮した建築はコストが高く、保険が適用されないリスクもあり、費用はさらに増大する。フロリダに限らず、世界中の沿岸都市で、こうした「アップスケーリング」という現象が発生している。

イアン以前のフォートマイヤーズは、7マイルに渡る砂浜にそって、古びてはいるがカラフルな建物が並ぶ、情緒のある街だった。簡素な平屋建ての民家やコンドミニアムは、海辺での暮らしを夢見る庶民にも手の届く不動産として人気を集め、規模の小さなモーテルは、フロリダを訪れる観光客に安価な宿を提供してくれた。

フォートマイヤーズの家屋や宿泊施設の多くは、厳しい建築規定がなかった時代に建設されていた。浸水や高波への耐性を求める建築規定は、92年のハリケーン「アンドリュー」後に考案され、2002年から施行されている。災害後の修復コストが不動産価値の50%を超える場合、新しい建築規定への適合が義務づけられる。フォートマイヤーズに家屋を所有していた大部分の人々は、イアン災害前と同様の家を建て直すことは叶わず、最新の建築規定に沿った再建ができるだけの財力がなければ、地所を売却する以外に道はない。

アップスケーリングは、観光公害に対するひとつの解決策ではある。60人で3万ドルを落とす一般観光客よりも、同じ額を10人で落としてくれる裕福な観光客のほうが、観光業リソースへの負担が少なく、過密にならず地元民の理解も得られやすい。リゾート開発業者も、ホテル市場全体における最大の成長株は富裕層向けの物件であることをよく理解しており、州政府もまた、高額な宿泊料金がもたらす税収を歓迎している。

しかし気候変動の結果として発生したアップスケーリングは、庶民や中小規模の業者が災害で失った建物を再建できず、数年で利益を出せる富裕層向けの別荘や高級ホテルにウォーターフロントが占領される事態を引き起こしつつある。通常、新しいホテルは5年から15年でコストを回復できるので、現在より明らかに水位が上がる30年後のことは考えずに開発される。潤沢に資金があるデベロッパーにとって、いずれ居住が不可能になる土地であると分かっていても、十分リスクに見合う投資なのである。

開発業者はまた、環境危機の中でもビーチフロントの人気は廃れないと踏んでいる。州政府も同様で、建築規定に災害耐性を組み入れさえすれば、海辺に建物を再建しても良いという考えだ。しかしハリケーンの破壊力は増すばかりであり、毎年同じ湾岸部が被害に遭う確率が高いため、建物をより強固にしたところで、長期的な解決策とはならない。沿岸部インフラの度重なる修復費用を、結局は納税者が負担することになる。

より多くの人が、今後も海辺を楽しめるようなソリューションを、政府が奨励することもできるはずだ。住民や観光客向けの仮設住宅や移動式住宅などはひとつの例だろう。危険な地域に住まないことを奨励する「管理退避」にも力をいれるべきではないのか。しかし、最も大きな障害は住民だ。フロリダからノースカロライナ、ニューヨークまで、刻々と水位が上がっているにも関わらず、沿岸からのリロケーションは住民の圧倒的な反対にあっている。

退避を奨励せず、住居の強化を推進するアップスケーリングは、いずれ住めなくなる場所に人間を追い詰める行為だ。これはもう、沈みゆくタイタニック号のデッキで椅子を並べ替えるといった状況ではない。沈没中の船上に新しい家を建てているようなものだ。

俺的コメント

カナダに引っ越した当初、湖畔に別荘を持っている人が珍しくないことに驚きました。とあるご近所さんも、5月から10月まで毎週末を過ごす別荘をお持ちでした。何度かお邪魔させていただきましたが、質素な山小屋風で、小さいながらもプライベートビーチがありました。ご主人は高校の先生で4人の子持ちという典型的な中間層のご家庭でしたが、別荘ライフが唯一の贅沢であり、ほかに旅行などは一切せず、自宅と別荘を維持するために、夫婦でバイトもしているということでした。

ウォーターフロントに自宅や別荘を所有している北米の「庶民」には、水辺の我が家に特別な思い入れがあります。共働きに副業までして手に入れた生き甲斐であったり、土地がタダみたいな時代に水辺に家を建てたご先祖様が残してくれた家宝であったり、「大金持ちじゃないけどウォーターフロントに住んでる自分」に達成感やら優越感やらを与えてくれるのですから。

優越感の対岸には必ず嫉妬があるわけで、水辺の家を失った人に向けられるのは同情ばかりではない気がします。この記事のコメント欄に多い「今後も水辺に住みたいなら勝手にすれば?でも災害で潰れた(ウォーターフロントの)自宅再建に公的な復興援助は絶対に期待しないで」という意見は正論ではあるものの、人の不幸は蜜の味、とほくそ笑んでる顔が浮かんだりもします。(正論をかましている人も、逆の立場だったらリロケーション絶対反対派になりそう。)

ウォーターフロント生活を自己破壊的な手段で達成する人もいます。身内の一人が、とある水辺の高級リゾート地に暮らしています。一軒家どころか賃貸に住む経済力もなく、少し前までは老朽化したヨットを自宅として船上生活をしておりましたが、ついに船を手放し今は車中生活のホームレスです。都市部に住めば、困窮者への公的援助を受けられるだろうに、なぜその土地を離れないのか。水辺を愛するあまり、というよりは、「ここには金持ちしか住んではならない」という社会の圧力に抵抗することを生き甲斐にしているようにも見えます。

再建したところで来年のハリケーンにまた破壊されるかもしれない、それでも富裕層向けの物件なら採算が取れるから、とアップスケーリングが止まない状況を、ささやかな家をハリケーンに奪われた一般ピープルは、さぞ苦々しい思いで見ていることでしょう。北米庶民のウォーターフロント愛は、今後どこへ向かうのか?リロケーション絶対反対の話やら、たとえホームレスになっても水辺を去らないケースを見ていると、沿岸生活を愛する全庶民が「金持ち以外お断り」という状況に甘んじるとは、どうしても思えないのです。最後の方に出てくる「住民・観光客用仮設住宅」など、実は非常に大きな商機じゃないでしょうか?



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新潟出身、カナダ在住。英語 -> 日本語 クリエイティブコンテンツ周辺のお仕事を請け負っています。

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