3分で読めるNYタイムズ記事まとめ

俺的アンテナに引っかかったニューヨークタイムズの面白記事を、個人的な感想と共に日本語で紹介しています。記事翻訳ではありません!


アンチトランプが実は悪役というストーリー

今日のピックアップNYT記事:What if We’re the Bad Guys Here?

ドナルド・トランプ前大統領起訴のニュースが毎週のように伝えられる中、共和党内でのトランプ支持率はライバルを大きく引き離している。次期大統領選を想定した世論調査でも、 トランプとバイデン大統領の支持率は伯仲状態にある。あれだけ色々とやらかしておきながら、なぜトランプ人気は衰えないのだろう。

反トランプ派はこう主張する。「共和党支持者は、世の中の動きについていけず、昔に戻りたがっている。女性、有色人種、LGBTの皆さんは、1963年に戻りたいと思いますか?」つまり、アンチトランプは、社会の進歩を支持する正義の味方であり、トランプ派は民度が低く無教養。偏狭の権化であるトランプが偏狭な人々に支持されるのもむべなるかな、というわけだ。

頷ける部分もあるが、このストーリーは、高学歴エリートの自己満足と捉えることもできる。我々アンチトランプが、実は正義の味方ではなく悪役だったというストーリーも考えてみよう。

高学歴エリートは、昔から自分たちに都合の良い社会システムを作ってきた。高校を卒業した若者がベトナムに駆り出される中、大学に行けば戦争に行かずに済んだ1960年代から、経済的にも政治的にも力を持つ高学歴層は、自分たちに有利な政策を支持してきた。自由貿易は安くものが買えるし、エリートの仕事は中国に持っていかれることもない。移民をオープンに受け入れればサービス業のスタッフを安く雇えるし、学歴の低い移民は、エリートの仕事を奪う恐れもない。

エリートはエリート同士で結婚し、高収入の仕事につき、多大なリソースを子供の教育に注ぎ込むので、子供たちもエリートになり、またエリート同士で結婚し…ということが世代を超えて続く。中流の子供たちは、学業で金持ちの子供たちに負け、中流の親は仕事で金持ちエリートに負ける。金持ちしか勝てないルールになっているのに、「負ける方が悪い」とする世の中が出来上がった。

平等を重んじ、差別に反対すると言いながら、エリートはあらゆる職業を乗っ取り、エリート以外の人々を「良い仕事」から締め出した。たとえば筆者がジャーナリズムの修行を始めた80年代、編集室には、まだ無骨な労働者階級出身の人間がいた。今や超一流大学を卒業しなければジャーナリストになることはかなわない。

我々エリート層のメンバーは、サンフランシスコ、DC、オースティンなど、数少ない活気ある都市部に集中している。2020年の選挙では、バイデンが勝利したカウンティの数はたったの500だが、この500はアメリカ経済の71%を占めている。対して、トランプは残りの29%を分け合う2500ものカウンティで勝利している。

エリートはまた、勝手にモラル規範も変えてしまう。昔は、結婚せずに子を持つことはタブーとされていた。しかし進歩的なエリートは、それは偏見だとして未婚の母を受け入れる社会を奨励する。かくして婚外子のタブーは廃れるのだが、エリート自身は今も昔も子供を持つ前に結婚しているのである。現在、高卒女性が生む子供の60パーセントは婚外子だが、大卒女性の場合は10パーセント。「シングルの親」というステータスは、社会的な上昇を阻む最大の要因であり、エリートが先導した意識改革が、下層から抜け出せない未婚の母を増やす結果になっている。

エリート同士は、政治的に正しい言葉使いをすることで「意識高い」同志を見分け、自分たちと同じ言葉を使わない人々を排除する。学のない人たちは気をつけなければならない。5年前には言っても大丈夫だったことを今言うと、会社をクビになる可能性だってあるからだ。

いかがだろう。もちろん筆者は、アンチトランプが邪悪な存在だと言っているのではない。我々はみな、真摯に社会の不平等をなくしていきたいと願ってはいる。しかし、我々が作ってしまった下流を抑圧する社会の中で、悪者になりたくないが故に、進歩的な社会の味方を演出しているということはないだろうか。

学歴の低い人たちが、抑圧された者の憤りを感じるのも無理はない。その点、トランプは、労働者の敵は雇い主ではなく高学歴エリートなのだと理解している。下流から這い上がれない人々にしてみれば、トランプの起訴事件を見ても、東海岸のエリート弁護士が庶民の味方を攻撃しているようにしか見えないだろう。

「歴史とは、支配者にとって都合の良い体制を作ってきた階層の墓場である」という言葉がある。我々の階層も、大衆の一揆に滅ぼされる危険があるということだ。トランプのポピュリズムを非難することはたやすい。しかし、トランプを救世主にしてしまう抑圧的な社会の生成を、我々自身がやめなければならない。

俺的コメント

この記事、コメント欄でかなりボコられていますが、そりゃまあそうでしょう。エスタブリッシュメントに都合の良い体制を作ってきた「金持ちエリート」は、二大政党どちらの支持者にも分布しているでしょうし、反トランプというだけで「金持ちエリート」と同じクラスに分類されるのは勘弁してほしいよね。大卒すなわち金持ちエリートって、一体いつの時代の話よ?

この記事の元々の趣旨は、都市部で大卒の仕事をして暮らし向きのいいアメリカ人は、底辺の仕事と暮らしから抜け出せない田舎のアメリカ人の言い分もきいてあげましょう、ということなのだと思います。わからないでもないですが、「反トランプ=金持ちエリート」という、トランプ支持者の幻想をそのまま前提にしたのはマズかった。「金持ちの子弟はベトナム戦争にいかずに済んだ」に始まり、支配者階級のズルさが連ねられていますが、トランプ自身が「戦争に行かずに済んだ金持ちの子弟」であり、ここでもう読む気が失せた人は多いかも。

こんなコメントをつけている人がいます。田舎の保守的アメリカ人は、低賃金の仕事に文句を言うけど、組合をサポートしない。田舎の学校のレベルが低く機会がないと文句を言うけど、教育に金をかけたがらない。田舎のインフラが悪いと文句を言うけど、田舎のインフラ改善を拒否する政党に投票する。自分で自分の首を絞めている人たちに同情する気にはなれない。

んー、これと同じようなことを新潟の田舎でも聞いたなあ。うちの婆さんは共産党シンパで、大衆が大衆に優しくない政党に投票し続けるのは何故なんだ!!って吠えてたっけね。ばあちゃん、自分が誰に騙されているのか理解できない愚民は、手玉に取りやすいんだべよ~。

先日の学費ローンの記事を読むと、アメリカで「困窮するインテリ」は今後増えそうです。そうなれば、大学出のインテリが世の中を牛耳っているという嘘は、通用しなくなるんじゃないでしょうか。世の中を支配しているのは、インテリではなく金持ちです。アメリカの状況は、インテリな金持ちとインテリじゃない金持ちの戦いって感じ?頑張ろう金のないインテリ!



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新潟出身、カナダ在住。英語 -> 日本語 クリエイティブコンテンツ周辺のお仕事を請け負っています。

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