今日のピックアップNYT記事:She Once Ran Against Putin. Her Advice Now: Resistance is Futile
俺的記事まとめ
地中海に面したスペインの高級リゾート地。友人のマセラティに乗って現れたクセニア・サプチャークは、インタビューに応じ世界に向けて訴えた。祖国ロシアに変化を求める戦いは、やるだけ無駄。プーチン大統領に抵抗することは不可能だということを、理解して欲しい。
戦争に反対した何千人というロシア人が逮捕され、多くのジャーナリストは国外へ亡命した。反体制派のリーダーたちは投獄され、何年もの間外に出ることはかなわない。いかなる犠牲もプーチンのウクライナ侵攻を止めることはできなかった。この現実を前に、サプチャークはリベラル派ロシア人に呼びかける。「プーチンが始めた戦争と折り合いをつけて生きていくしかない。国民にできることなど、何もないのだから。」
クセニア・サプチャークは、2000年代初期に、テレビ番組の司会者として有名になった。父親はサンクトペテルブルグの元市長、90年代に部下として働いていたウラジーミル・プーチンを政治の表舞台に引き上げた人物でもある。
2011年、サプチャークはロシア反政府運動に参加、18年には、プーチンが4期目を務める結果となった大統領選挙に立候補している。反政府リーダーのアレクセイ・ナワリヌイは立候補が認められず、サプチャークは出来レースを公正な選挙に見せかける手駒に使われた形になった。ナワリヌイの引き立て役となったサプチャークはその後、ライフスタイル系インフルエンサー兼メディア実業家として活動を続けている。
ウクライナ侵攻直後、クレムリンは独立系メディアを閉鎖し、ジャーナリストたちは戦時下の検閲を恐れロシアを離れた。サプチャークも夜中にパニックで目が覚めるほど動揺したというが、亡命する道を選ばなかった。亡命したら、外から祖国を批判し、諸国にロシアの暴挙を謝罪し続けることになる。それよりも、ロシアに留まり、できる限りロシア国内からのコンテンツを発信し続けようと決心。それが省略だらけのコンテンツだとしても。
サプチャークのインスタグラムは、950万人がフォローしている。モスクワの街をバックに、シャネルのビンテージバッグとロシア人デザイナーのドレスを合わせた姿を披露し、YouTubeでは有名人とのインタビューや、戦争に批判的な意見も取り上げている。ロシアの国営メディアが無視しがちな話題、例えば反戦活動家の逮捕、前線から引き上げ中の兵士による暴力、チェチェンでの人権侵害などのニュースも発信している。
彼女の現在のスタンスは、ウクライナ侵攻には反対だが、戦争は自然災害のようなものであり、なんとかやり過ごすしかない、というものだ。リベラル層にはクレムリン擁護と批判され、戦争賛成派には愛国心がないと批判される。ただし、妥協したスタンスではあるが、国営テレビ以外にオンラインで情報が得られるプラットフォームの提供者として、評価される向きもある。
サプチャークは昨年、自身のメディア会社の社員3人が逮捕された際に、短い間だが外国に逃げている。プーチンの元上司の娘という、個人的なコネがある人物ですら弾圧の対象になるのかと目されたが、彼女は3週間後に帰国し、公に謝罪している。サプチャークは、「逮捕された社員のために謝った。彼らの自由を求めて今でも戦っている」という。
亡命したロシア人たちは、国に留まるしか選択肢のない戦争反対派の苦境をわかっていない、とサプチャークは批判する。また、西側諸国からの意見にも否定的だ。和平を取り持つ努力は二の次に、自国の立ち位置を有利にしようとウクライナ戦争を利用している西側諸国こそ、人命を軽視している、という。
亡命中のジャーナリスト、マリア・ペブチクは、サプチャークは、自分自身の無力感を国民感情に植え付けていると分析。「自分たちにできることは何もない」という言葉には、一抹の慰めがあり、抵抗するすべを持たない人々の心に響くのかもしれない。
ロシア人富裕層に人気のスペインのリゾート地で、西側からの制裁の標的にされることを恐れている、とサプチャークは認めている。しかしロシアに帰れば反戦スタンスで逮捕される可能性もあり、どちらの運命も避けたいという。「人間は、平穏で幸せな暮らしをするために生きている。誰もが英雄になるために生まれてくるのではない。」と彼女は述べている。
俺的コメント
独裁者と個人的なコネがある人間が自由主義ジャーナリストをやるというのが、そもそも無理筋な話?プーチンにとって、真の脅威であったナワリヌイとは違い、サプチャークの存在は痛くも痒くもないと。それどころか、「ウチは独裁政治なんかじゃありませんよ?」という茶番に利用されて、「戦争は仕方ないことだから我慢しましょう」という主張はギリギリOK、寛大なるお目こぼしを賜り、プーチンの恩人の娘だし、あまり大声で反戦を叫ばないようにしていれば、南欧の高級リゾートで夏休みを過ごす自由を謳歌しても良い、と。なんちゅーか、グロテスクな話だな。
戦争の是非を問うロシア国民への世論調査では、「ウクライナとの戦争を支持しますか?それとも牢獄に行きたいですか?」と質問される、と言っていた人がいました。だから国民は圧倒的に戦争を支持している、という結果が出るのだと。
言論の自由と平穏な暮らしのどちらかを選べと言われたら、どうしますか。俺は正直な話、平穏な暮らしに転んでしまう気がする。でも、英雄ナワリヌイに比べてあまりにもアレなこのおばちゃんに、「でしょ?圧政に抵抗しないことを恥じなくてもいいいのよ?」とか言われたくないかも。庶民の平穏な暮らしと、あんたのおシャネルマセラティ~なセレブ暮らしを同列に語らないでくれる?って思いますわ。んとに、富裕層の言うことって説得力ないな。
まーでも、高級リゾートとかおシャネルとか、記事のあちこちに散りばめてあるのは、まさに「金持ちが何言ってんだか」という反応を引き出すためのNYT的なイヤらしさかもしれません。亡命したくてもできないロシア人の心のうちを思いやりなさい、という主張には、「お前が言うな」と思いつつ、納得もする次第です。おばちゃんも、望んで高官の娘に生まれたわけじゃないだろうし、それぞれの苦労があるわな。
