3分で読めるNYタイムズ記事まとめ

俺的アンテナに引っかかったニューヨークタイムズの面白記事を、個人的な感想と共に日本語で紹介しています。記事翻訳ではありません!


インドの魔女狩り「迷信は女性を抑圧するためのツール」

今日のピックアップNYT記事:India Struggles to Eradicate an Old Scourge: Witch Hunting

俺的記事まとめ

2021年、インド東部ジャールカンド州。26歳のダルガ・マハトは、「お前は魔女だ」と叫ぶ4人の村人に、2時間にわたって殴る蹴るの暴行を受けた。

インドでは古来より、迷信による魔女狩りが行われてきた。農作物が実らなかった、井戸が枯れた、家族が病気になったなど、原因不明の不幸や災難があると、魔女の仕業として誰かが糾弾される。

魔女狩り被害者の支援団体は、迷信は女性を抑圧するツールだという。収奪や腹いせ、暴力の正当化に、魔女という迷信が利用されるのだ。ダルガ・マハトの場合、魔女狩りにあった原因は、村の有力者による性的な誘いを拒否したからだという。

ダルガに暴行を加えた有力者とその家族は起訴されたが、災難は終わらなかった。魔女の烙印を押されたダルガは村の池での水浴を禁止され、共同水の使用を拒否された。村の中に出てこれないよう、家の周りに塀を築かれ、村人たちは、牛が死ぬとダルガのせいだと言うようになった。

こうした魔女狩りは、今でも主にインド中部および東部の原住民社会に存在している。多くの州では、魔女狩りを禁止する法律があり、厳しい罰則も設けられている。犠牲者を悼む碑を建立するなど、住民を感化する試みも行われているが、深く根付いた迷信は一掃が難しい。

魔女認定された女性たちは、爪を剥がれる、排泄物を食べるよう強要される、裸にされて引き回される、殴る蹴るなどの虐待を受け、火炙りや集団暴行により命を落とすこともある。2010年から2021年にかけて、インドでは魔女狩りで1500人以上が殺されている。

ジャールカンド州は特に魔女狩りが多い。2021年だけで854件の魔女狩り事件があり、32人が殺された。州政府は様々な魔女狩り根絶キャンペーンを展開、被害者の救済にも努めているが、司法の対応は弱く、法律支援団体によると、殺人あるいは殺人未遂にまで発展しないと警察は動かないという。

ジャールカンド州では2023年までに魔女狩りを根絶するという目標を掲げていたが、少なくとも3年は目標達成が先送りされる見込みだ。

俺的コメント

たまたま17世紀ボストンの魔女狩りを題材にした小説を読んでいるときに、この記事を目にしました。今では魔女狩りの歴史がボストンの観光資源になるほど遠い過去の話になりましたが、インドでは今でも魔女狩りが行われていると。

これは女性が女性だという理由で殺される「フェミサイド」です。ジェノサイド(民族大量殺戮)をもじった「フェミサイド」という言葉は、過激なフェミストの大袈裟な表現だと主張する人もいるようですが、女性が組織的に殺されてきた歴史を見れば、大量殺戮で間違いないです。フェミサイドについては、国連のページにわかりやすい説明があるのでご一読を。

男は女を殺してもいいと思っている、そうでなければ、あんなに大勢の女が夫や恋人に殺されるはずがない、と内田春菊がどこかに書いていました。17世紀アメリカの清教徒的には、妻を殴ってもオッケーだったようで、件の小説には「妻の躾のために殴る」「妻の魂を救済するために殴る」という場面があります。

メキシコでは、パンデミック中にフェミサイドが増加したそうです。魔女だから殺すとか、妻の魂を救うために殴るとか、そういう言い訳が通用しない時代と社会で起こる女子大量殺戮を見れば、フェミサイドとはつまり「むしゃくしゃするから女を殺してスッキリしよう」の歴史だとわかります。

歴史の中で魔女として狩られた女たちは、社会不安から個人的な恨みやストレスまで、あらゆるネガティブな気の吐け口となって殺されたのです。現在でも、世界中の女性が同じように大量殺戮にあっています。

インドの魔女狩りの記事を読んで最初に思ったのは、「インド、世界に誇る金持ち国になったのに恥ずかしくないのか、なんとかしろ」でしたが、これはインドだけの問題じゃないですね。インドに無知で野蛮な習慣が「残っている」のではなく、今も昔も普遍的なフェミサイドという問題がインドにもある、ということです。



About Me

新潟出身、カナダ在住。英語 -> 日本語 クリエイティブコンテンツ周辺のお仕事を請け負っています。

最近の投稿