3分で読めるNYタイムズ記事まとめ

俺的アンテナに引っかかったニューヨークタイムズの面白記事を、個人的な感想と共に日本語で紹介しています。記事翻訳ではありません!


生殖医療の未来と遺伝子編集テクノロジー

今日のピックアップNYT記事:Does Gene Editing Have a Future in Reproductive Medicine?

俺的記事まとめ

ワトソンとクリックがDNAの二重らせんを解明して以来、科学者たちは人間の遺伝子組み換えの可能性について議論してきた。2018年、中国人研究者の賀建奎は、実際にヒトの遺伝子操作を行い世界を驚かせた。遺伝子編集ツールCRISPERを使用し、HIV耐性を備えた「ゲノム編集ベビー」を誕生させたのだ。

2012年、CRISPER技術のベンチャーを立ち上げた賀建奎博士は、当初はイノベーション大国を目指す中国政府に支持されていた。しかし、世界初のゲノム編集ベビーを成功させ「国の英雄」になれると思っていた博士の予想は大きく外れた。国内外からの激しい批判を受け、中国政府は、「個人的な富と名声」を追求し「違法な医療行為」を働いたとして、賀建奎に懲役3年の判決を言い渡す。

2022年に刑期を終えた賀建奎博士は、「批判から新たな見識を得た」と言いつつ、最近になって新しいバイオテクノロジーベンチャーを設立、過去の倫理的過誤を繰り返す兆しを見せている。

この事件は、人間の健康や多様性に関わる基本的な価値観よりも、画期的な技術の収益化が優先される「イノベーション経済」の問題を如実に表している。生殖医療での遺伝子編集はまた、優生思想を再燃させる可能性がある。「完璧な赤ちゃん」を設計するビジネスにCRISPER技術を使う、いわゆるデザイナーベビーの問題だ。

テクノロジー濫用の可能性を考えると、生殖医療でのゲノム編集応用は、利点がリスクを上回るとは言い難い。我々はこの技術を封印し、ヒトクローンの生成と同じく法律で禁止することもできる。あるいは、遺伝病の回避など、特定の条件においてのみ許可することも考えられる。ただし、実際の医療行為の中で遺伝子編集を行うなら、法規制と明確な倫理的ガイドラインが必要だ。

ゲノム編集ベビーのルルとナナが生まれた時、賀建奎博士は「健康な普通の赤ちゃんと同じように産声を上げた」と発表したが、これは誤解を誘う言い方だ。ルルとナナは未熟児で生まれ、誕生直後には呼吸に問題があった。これが遺伝子編集と無関係とは言い切れない。

もちろん技術的なリスクだけでなく、社会的なリスクも考慮しなければならない。例えば、「将来的な病気を防ぐ」という原則で遺伝子編集を行うとしても、障がいを受容する社会という価値観の喪失など、意図せぬ問題を引き起こすかもしれない。賀建奎博士自身は、治療目的でしか遺伝子編集を行うべきではないと言っているが、彼自身が行った実験も、医療なのか人間の改良なのか、明確とは言い難い。

社会と乖離した場所で暴走するバイオエンジニアに、科学と倫理の枠組みを委ねてはならない。遺伝子編集テクノロジーの将来は、市場原理に任せるのではなく、社会全体の価値観を基準に決定していく必要がある。

俺的コメント

SFの世界なら、邪悪な科学者がヒトを品種改良して世界支配を目論むプロットはテンプレですが(例:夜叉By吉田秋生)、本当に何の疑問もなくゲノム編集ベビーを作ってしまった賀建奎博士。動機が「富と名声」ってとこが、雨宮博士(夜叉を参照)と同じくらいマンガの悪役っぽくて悲しい。世界中から総スカンくらって刑務所行き、シャバに戻ってきたと思ったら、またゲノムベンチャーの立ち上げですか…懲りねえ兄ちゃんだな。

科学技術系の記事を読んでいますと、実に頻繁に引用される言葉があります。 Whatever can be done will be done. 可能なことは必ず実行される、と。ヒトの品種改良が “can be done will be done”になったら怖いです。そこを怖いと思いつきもしない賀建奎センセイの(勝手にゲノム編集ベビーを作って)何が悪いの?なんで褒めてくれないの?っていう能天気ぶりはどこから来るのでしょう。神になりたい邪悪な科学者系のSF読んだことないんか?それとも立身出世と金儲けが絶対的な価値観?

そこでふと思い浮かんだ名前が「田中角栄」。飛躍しすぎですみません、新潟出身なもので。田中角栄といえば、俺が育った田舎では、鄙には稀な立身出世を成し遂げた英雄であり、地元に富をもたらし神様扱いされていたのです。ゲノム編集ベビーで中国の国民的英雄になれると思っていた賀建奎センセイは、同じ神様でも「人類の創造神」ではなくて、田中角栄的な神になりたかったのかも。最先端のテクノロジーを担っているのに、発想が田舎者という悲劇か(涙

ところで、賀建奎センセイの件を含め、遺伝子編集テクノロジー周辺の内情がよくわかる本があります。ウォルター・アイザックソン著 The Code Breaker です。CRISPER技術でノーベル賞を受賞したジェニファー・ダウドナの伝記なのですが、研究者同士のすったもんだや友情を描いた人間ドラマとしても秀逸。新型コロナウィルスのワクチンが、なぜあれほど速く開発できたのかも理解できました。ワクチン陰謀論者の方々にもぜひ読んでいただきたい。

ちなみに、「ワトソンとクリック」を、俺んちのリケジョが「世紀の大悪人」扱いする理由もわかりました。女性研究者を踏み台にして自分らだけ栄光に浴していたんですね。朝日新聞「リケジョがいなくなる日」は、女性研究者の苦労を綴った非常に気が滅入るシリーズでしたが、全世界のリケジョの皆様には、ダウドナさんから元気をもらってほしいです。



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新潟出身、カナダ在住。英語 -> 日本語 クリエイティブコンテンツ周辺のお仕事を請け負っています。

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