今日のピックアップNYT記事:Inside the Medical Examiner’s Office, Where Opioids Fuel Surge in Deaths
俺的記事まとめ
ニューヨーク市内で発生する死亡事故の死因を調べる検死局は、かつてない仕事量に忙殺されている。コロナ禍での検死件数急増は想定内としても、パンデミックの収束とともに増加傾向が落ち着くのでは、という予想は裏切られた。現在、検死件数の増加にもっとも貢献しているのは、主にフェンタニル(合成オピオイド)の過剰摂取による事故死である。
NYCにおける2021年の薬物過剰摂取(OD)死亡事故は2700件。これは過去20年において最多であり、2022年の数字はさらに高くなると予想される。平均すると、3時間に一人の割合でOD死亡事故が起こっている計算になる。薬物中毒死はかつて、NYCのすべての事故死(交通事故や労災事故を含む)の60%を占めていた。それが今では、80%から85%にのぼるという。冷蔵室にOD死犠牲者の検死標本が山と積まれた検死局は、NYCのどこよりも、オピオイド危機の深刻さが感じられる場所だろう。
NYCに出回っているコカインとヘロインにはフェンタニルが混じっており、OD死亡事故の8割のケースでフェンタニルが検出されているという。フェンタニルが混じったコカインは特に危険であり、同一バッチのドラッグを使用したと見られる3名が別々に死亡した例もある。ODによる呼吸困難状態を家族がいびきと間違え手遅れになることもあり、フェンタニルがもたらす死は足が速い。たまにしかドラッグに手を出さない人が週末ちょっとNYCに夜遊びに、というような状況でも、フェンタニルへの注意喚起が必要だ。
NYC検死局では、ソーシャルワーカーのチームが犠牲者の家族のケアにも努めている。検死局の仕事としては前例のない取り組みだが、突然親しい友人や家族を失った人々には、心のケアから事故死後の各種手続き相談まで、さまざまな支援ニーズがあるという。
俺的コメント
NYCの事故死の8割が薬物の過剰摂取って、すごくないですか。麻薬中毒死といえば、芸能界とか犯罪組織とか、異世界の話かと思っていました、数年前までは。
俺の子供はNYCみたいな大都会とは似ても似つかぬオンタリオ州田舎のフツーの高校生と大学生だが、ナロキソンキット(オピオイド拮抗薬)を持っている。学校の友達や知り合いや、あるいは通りすがりの人がODになってしまった際に救命できるようにと、ナロキソンキットを携帯するのが今時の若者の常識なんだそうだ。キットは薬局で無料でもらえるとのこと。
オピオイドというのはアヘン戦争のアヘンね。オピオイド中毒が、なぜ北米では真面目な一般市民の問題になってしまったのか、その経緯がよくわかる本があります。Empire of Pain というノンフィクションですが、2021年のバラク・オバマさんのおすすめ本リストに載っていました。最近読んだ本の中では、俺的ナンバーワンの良書であります。
ざっくりまとめると、オピオイドを鎮痛剤として開発した製薬会社が、依存性はありませんと嘘をこいて売りまくり医者は処方しまくり、あらゆる痛みに対してオピオイド鎮痛剤がバンバン使われてしまったのです。慢性腰痛やら手術後の痛み止めとして医者にオピオイドを出され、そのまま依存症になってしまうなんて、誰にでも起こりうることです。製薬会社とその創立者一族が、医者やお役所も巻き込んで、いかに阿漕な売り方をして現代の集団アヘン中毒を引き起こしたかという、アメリカで本当にあった怖い話。
同じテーマを扱ったドラマ、DOPESICKもおすすめです。マイケル·キートン演じる善良な医師が、オピオイド地獄に落ちていく過程がとてもリアルで怖い。
